2019年12月15日日曜日

『銀河鉄道の夜』のクルミに関する論文

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』には、学者がクルミの化石を掘り出している場面が描かれています。
このクルミに関する論文があったので紹介します。

○論文
・石井竹夫(2015):宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するクルミの実の化石(前編)
・石井竹夫(2015):宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するクルミの実の化石(後編)

いずれも「人間・植物関係学会」の学会誌に掲載されています。

○論文で考察されていること
これらの論文では、
(1)その場面に出てくるクルミの化石がどういうものか
(2)なぜ化石の発掘現場をジョバンニの夢の中に登場させたのか
について考察されています。

○『銀河鉄道の夜』におけるクルミの化石の場面
『銀河鉄道の夜』の第三次稿の七章「北十時とプリオシン海岸」でジョバンニとカンパネルラが最初に途中下車する「白鳥の停車場」近くの「プリオシン海岸」で、学者らしき人物がクルミや牛の化石を発掘している場面。
「黒い細長いさきの尖ったくるみの実」と表現されている。



○論文の結論
(1)その場面に出てくるクルミの化石がどういうものか
・賢治は花巻市郊外の泥岩層の中からクルミの化石を見つけた。
・賢治が発見したクルミの化石は、当時は「第三紀鮮新世」の「バタグルミ」の実と思われていたが、現在では「第四紀」の前期〜中期「更新世」の「オオバタグルミ」(約100万年前を上限として絶滅した)であろう推測されている。

(2)なぜ化石の発掘現場をジョバンニの夢の中に登場させたのか
理由①
当時花巻の北上川流域の「第三紀鮮新世」の泥岩層から採取されたと考えられたクルミの実の化石と同じものが、イタリア(『銀河鉄道の夜』の物語の出発点)でも採取できることを賢治が知ったから。

理由②
「オオバタグルミ」が2個寄り添って実を付けているイメージがあったのではないか。(現存する「バタグルミ」は普通2〜3個)
白鳥の停車場の近くにはイチョウの木があった。
第七章は「二」ないし「二人」という文字が繰り返しでてくるが、ジョバンニとカンパネルラの関係を示唆しているのではないか。
賢治はクルミを法華経の比喩として使っていたが、ジョバンニとカンパネルラの関係は、法華経の第27章「妙荘厳王本事品」に登場する二人の王子(兄の浄蔵と弟の浄眼)に対応する。

理由③
「バタグルミ」の種子はバターの味がするからではないか。
 『銀河鉄道の夜』は、母親に届いていない牛乳を取りに行く途中で夢の中(死後の世界)で天の川(Milky way; 乳の道)を旅する物語であることと関係があるのではないか。

クルミや牛の化石を発掘する「学者らしい人」は、「標本にするんですか」と問われ、「いや、証明するに要るんだ」と答えてい ますが、これは『銀河鉄道の夜』の最終章でジョバンニ(法華経の薬王菩薩の化身)とキリスト教徒らしき青年らの間で行われるどれが「ほんとうの神さま」か という論争において、決着を与えるためだったのではないか、とのことです。
『銀河鉄道の夜』の最終章に登場するくるみの林は法華経思想の比喩であり、「ほんとうのこと」を言っているのは法華経だと言いたいのかもしれない、とのことです。

これまで『銀河鉄道の夜』は2〜3度読んだことがありましたが、何のことやらさっぱり分からないというのが正直な感想でした。
今回この2本の論文を読み、埋め込まれている意味を理解するには、そのような賢治の思想をよく理解している必要があることがわかりました。

『銀河鉄道の夜』以外にも賢治の詩にはクルミが登場しますので、別の機会にまた調べてみたいと思います。

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【関連記事】
続・『銀河鉄道の夜』のクルミに関する論文

〔引用・参考文献〕
・石井竹夫(2015).宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するクルミの実の化石(前編).人間・植物関係学会. 15(1):31-34.
・石井竹夫(2015).宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に登場するクルミの実の化石(後編).人間・植物関係学会. 15(1):35-38.


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